高校生アスリートの水分摂取量は、一般の1.5〜2倍でも不足の可能性 適切な水分補給指導が必要
国内の高校生を対象に、水分の出納バランスを詳細に検討した結果が報告された。アスリートと非アスリートとを比較すると、前者の水分摂取量は男子で2倍、女子は1.5倍多いものの、尿の濃縮度からはそれでも摂取量が十分でない可能性が示唆されるという。専門学校健祥会学園の武田英二氏らの研究であり、論文が「The Journal of Medical Investigation」に掲載された。
高校生アスリート、非アスリートの水分出納を詳細に検討
水は細胞や組織の主成分と言え、生命活動と健康の維持のため適切な水分補給が不可欠。アスリートは発汗により水分出納のバランスが負に傾きやすいことが知られていて、体重の2%以上の脱水ではパフォーマンスの低下が生じるとされている。また、夏季には脱水により熱中症リスクが上昇する。
脱水によるこれらのマイナスの影響を抑えるために、運動前から運動後にかけての適切な水分補給が必要だが、国内の高校生アスリートの水分出納に関するデータは限られている。これを背景として武田氏らは、アスリートと非アスリートの高校生を対象とする横断的観察研究を実施した。
研究参加者は、男子31人(アスリート18人、非アスリート13人)、女子23人(同順に10人、13人)で、年齢の四分位範囲は全群16~17歳であり、男子・女子ともに有意差はなかった。
水分出納の評価方法
水分摂取量は、管理栄養士が飲食物の計量方法を指導した後に、2日間にわたり記録をつけてもらい、その記録を基に算出した。この飲食物として摂取される水分のほかに、体内でのエネルギー産生に伴い生成される代謝水を250mLとし、その合計を「総水分摂取量」とした。
一方、2日連続で蓄尿してもらい尿量を把握。総水分摂取量と尿量との差は、発汗等による腎外性水分喪失(non-renal water loss;NRWL)とし、尿量+NRWLを総水分喪失量とした。
このほかに、血液および尿のナトリウム、カリウム濃度を基に「U(Na++K+)/145」を算出。この値は尿の濃さ(濃縮度)を表し、1.0を超えていると水分摂取量が不足していることが示唆される。
高校生アスリートの水分摂取量は多いものの喪失量を補えていない可能性
水分摂取量はアスリート群が多く、とくに食品からの水分摂取が多い
1日の総水分摂取量は体重あたりの中央値(四分位範囲)が、男子の非アスリート群は38.6(32.8~42.7)mL/kg、アスリート群は80.1(55.7~104.1)mL/kgで、後者が約2倍であり有意に多かった(p<0.001)。また女子も同様に、46.0(39.8~54.0)mL/kg、70.6(60.0~79.4)mL/kgであり、アスリート群が約1.5倍であり有意に多かった(p=0.001)。
この水分摂取量を食品由来と飲料由来に分けてみると、男子の非アスリート群は食品からの水分摂取が39.0%、飲料からが49.7%であるのに対して、アスリート群は61.5%、31.5%であり、アスリート群は食品からの水分摂取量の割合が高かった(p=0.005)。同様に女子も、非アスリート群は食品から34.3%、飲料から54.4%、アスリート群は46.5%、46.5%であって、アスリート群は食品からの水分摂取量の割合が高かった(p=0.032)。
アスリート群は尿量が少なく、腎外性水分喪失(NRWL)が有意に多い
1日の総水分喪失量のうち尿量は、体重あたりの中央値(四分位範囲)が、男子の非アスリート群は19.0(10.2~27.2)mL/kg、アスリート群は12.0(10.0~19.8)mL/kgであり、アスリート群が少ないものの有意差はなかった(p=0.289)。それに対して発汗等による腎外性水分喪失(NRWL)は同順に18.8(13.0~24.9)mL/kg、60.4(46.5~78.8)mL/kgであって、アスリート群はNRWLが有意に多かった(p<0.001)。
一方、女子の尿量は、非アスリート群が28.9(15.6~31.7)mL/kgであるのに対してアスリート群は16.1(8.8~19.9)mL/kgと、有意に少なかった(p=0.032)。女子のNRWLに関しては、非アスリート群が24.8(14.0~33.2)mL/kgであるのに対して、アスリート群は53.1(49.9~60.7)mL/kgであり、男子同様にアスリート群が有意に多かった(p<0.001)。
アスリート群は尿の濃縮度が高い
尿の濃縮度の指標である「U(Na++K+)/145」の中央値(四分位範囲)は、男子の非アスリート群が1.0(0.7~1.4)、アスリート群は1.4(1.0~1.6)であり、アスリート群のほうが高かったが群間差は非有意だった(p=0.089)。
それに対して女子は、同順に0.8(0.7~1.2)、1.5(1.2~1.6)であって、アスリート群のほうが有意に高かった(p=0.004)。
パフォーマンスを発揮するために適切な水分摂取を
本研究から明らかになった点として、まず、高校生アスリートの水分摂取量は非アスリートよりも男子は約2倍、女子は約1.5倍多いことが挙げられる。ただしアスリートは腎外性水分喪失(NRWL)が多く、また尿濃縮度が高いという結果から、水分摂取量が十分ではない可能性が示唆された。そのほかに、高校生アスリートは非アスリートに比べて飲料でなく食品からの水分摂取の割合が高い傾向のあることも明らかになった。
アスリートの水分不足はパフォーマンス低下につながることがある。著者らは、「高校生アスリートに対し水分摂取の重要性について、より一層、認識を高めるような指導が必要ではないか」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Assessment of water balance in high school athletes and non-athletes」。〔J Med Invest. 2025;72(1.2):42-46〕
原文はこちら(J-STAGE)
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