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日本人アマチュアゴルファーがラウンド中に経験する労作性熱疲労の関連因子が明らかに

ゴルフプレー中の労作性熱疲労の発生と関連のある因子が報告された。睡眠不足、食欲低下、精神的ストレス、脱水症状などが多変量解析で有意な関連が認められたという。武蔵丘短期大学健康生活学科の長島洋介氏が関東ゴルフ連盟との共同で行った、日本人アマチュアゴルファーを対象研究からの知見であり「Temperature」に論文が掲載された。論文の末尾には、得られた知見を総括した、プレー中の熱中症リスク抑制戦略が示されている。なお、関東ゴルフ連盟は2024年に、ゴルファーやゴルフ場向けに熱中症対策のためのガイドラインを策定している。

日本人アマチュアゴルファーがラウンド中に経験する労作性熱疲労の関連因子が明らかに

ゴルフの運動強度は高くないが、熱中症ハイリスク

ゴルフは他の陸上競技と比べて運動強度という点では高いとは言えない。しかし、長時間にわたり木陰の少ない場所でプレーが行われ、かつプレーヤーの年齢層が高いことなどは、熱中症のリスク因子となり得る。実際、スポーツ関連の熱中症による入院率を競技別にみるとゴルフが最多で13.3%を占めるとするオーストラリアからの報告があり、国内でも中部地方のゴルフ場で発生した救急要請の23.4%が熱中症によるものという報告がある。

スポーツに伴う熱中症は「労作性熱中症(exertional heat illness;EHI)に該当する。この労作性熱中症は、倦怠感や吐き気、めまい、局所の痙攣などを呈する「労作性熱疲労(exertional heat exhaustion;EHE)」と、全身性の痙攣や虚脱などを来し、時に昏睡から致死的となる「労作性熱射病(exertional heat stroke;EHS)」に大別される。

従来、スポーツ中の熱中症に関する研究は主に医療記録に基づいて解析されてきており、必然的にEHS患者対象研究からの知見が多いため、EHEとスポーツとの関係については不明点が多く残されている。EHSの予防戦略を確立するには、EHSの前駆症状を来しているEHEの実態を詳細に検討する必要があると考えられる。

以上を背景として長島氏らは、web調査を利用した後方視的症例対照研究により、ゴルフプレー中のEHE発生に関連のある因子の特定を試みた。

脱水症状、睡眠不足、食欲不振、疲労の蓄積、ストレスなどがEHE発生に関連

この研究は、関東地方のゴルフ場、ゴルフ競技会の会場、およびゴルフ練習場に研究告知を掲示し、ゴルフ場でのプレー頻度が1カ月に1回以上であることを適格条件として参加者を募集。Web上でのアンケートに回答してもらうという手法で実施した。

アンケートでは、ゴルフプレー中の労作性熱疲労(EHE)症状を自覚した経験の有無を質問。この回答との関連性を検討する因子を把握するため、体調に関する質問(食欲低下、睡眠不足、嘔気、二日酔い、脱水症状、疲労の蓄積、精神的ストレスという7項目)、生活習慣に関する質問(運動関連3項目〈月間ラウンド数など〉、食事関連2項目〈プレー日の朝食摂取など〉、睡眠関連2項目〈睡眠時間など〉)、食行動に関する質問(スポーツドリンク、塩飴・塩タブレット、サプリメントの摂取状況など8項目)、プレー環境に関する質問(気温、湿度、日射、風、ウェア、プレー中の休憩時間という6項目)が設定されていた。

アマチュアゴルファーの43.5%がプレー中の熱疲労の経験あり

454人がこの調査に参加し、そのうち446人(98.2%)が有効回答とされた。性別は男性が67.5%で、年齢層は50代が最多で29.1%を占め、以下、60代23.5%、40代15.5%、18歳以下13.9%と続いた。全体の62.3%が競技会への参加経験を有していた。

194人(43.5%)が、プレー中に労作性熱疲労(EHE)症状を自覚した経験があると回答した。EHEを自覚した経験があることを目的変数、アンケートで把握されたその他の因子を説明変数とする解析により、EHEの関連因子が検討された。なお、論文では単変量解析と多変量解析の結果が示されているが、ここでは後者の結果を中心にみていく。

プレー中のEHE症状発現と独立した関連のある因子が明らかに

多変量解析によりプレー中のEHE症状の自覚と独立した関連が認められた因子と、その調整オッズ比(aOR)および95%信頼区間は以下のとおり。

体調関連因子

脱水症状の自覚(aOR4.65〈95%CI;3.08~7.03〉)、睡眠不足(4.38〈2.84〜6.77)、食欲不振(4.32〈2.84〜6.58〉)、疲労の蓄積(3.26〈1.17〜1.31〉)、精神的ストレス(2.71〈1.78〜4.12〉。

生活習慣関連因子

ゴルフの平均ラウンド数(1.88〈1.14〜3.13〉)。

食行動関連因子

スポーツドリンク摂取量の増加(2.07〈1.20〜3.56〉)、塩飴や塩タブレットの摂取量の増加(1.99〈1.29〜3.05〉)、サプリメントの摂取量の増加(1.88〈1.14〜3.11〉)。

食行動関連因子とEHEとの関連は対処行動の現れであって因果関係ではない

上記のほかに検討された、性別や年齢層、ふだんの運動にあてる時間の長さ、競技会への参加経験の有無などは、単変量解析の段階で有意な関連がみられなかった。またプレー環境関連因子として検討された6項目の中で、休憩時間が十分でないことのみ、単変量解析ではEHE経験あり群で有意に多かった(41.8 vs 32.5%、p=0.048)。ただし多変量解析では非有意だった。

なお、食行動関連因子として検討された、スポーツドリンクや塩飴・塩タブレット、サプリメントの摂取量の増加がEHEの経験を有することと有意に関連しているという結果について著者らは、「それらの食品・サプリの摂取がEHEリスクを高めるという因果関係を示すものではなく、EHEの初期症状を自覚した際にそれらを摂取するという対処行動との関連を示すものと解釈される」と考察している。

実践への適用

冒頭に記したように、論文の末尾には本研究から得られた知見を基に、アマチュアゴルファーのプレー中のEHEリスク抑制のための具体的な対策が述べられている。本稿でも最後にそれを紹介する。

自分の体調に注意を払う

とくに暑い時期は自分の体の声に耳を傾ける。異常な疲労感、脱水症状、食欲不振、精神的なストレスなどは、熱中症の兆候である可能性がある。

警告サインを放置しない

練習・トレーニング中またはゴルフのラウンド中に上記の警告サインのいずれかを自覚した場合は、運動量を減らすか、必要に応じてスケジュールを調整すべき。

頻繁なゴルフラウンドはリスクを高める可能性がある

とくに夏場には、短期間に多くのラウンドをプレーすると、疲労が蓄積し熱中症のリスクが高まる可能性がある。ラウンドの間隔をあけることを検討する。またトーナメント主催者は、早朝や夕方の開催などを検討する必要がある。

スポーツドリンクと塩分補給に注意

水分補給は重要だが、スポーツドリンク、塩分タブレットなどが熱中症を予防できるとは限らず、それらを過信してはならない。それらを摂取したくなるということが、すでに熱中症のリスクにさらされている兆候の可能性もある。

情報収集

めまい、頭痛、吐き気、倦怠感といった熱中症の症状に注意する。これらの症状を早期に発見することで、より深刻な問題を防ぐことが可能。

文献情報

原題のタイトルは、「Associated factors for exertional heat exhaustion-related symptoms among amateur golfers in Japan: A retrospective case-control study」。〔Temperature. 2025 Jun 03〕
原文はこちら(Informa UK)

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