クレアチン摂取と脱毛に関連はない 筋トレ男性対象の12週間無作為化比較試験のエビデンス
クレアチンを摂取しても、脱毛が進むことはないという研究結果が報告された。ふだん筋トレを行っている男性を対象とする、介入期間12週のプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験の結果。
クレアチンは毛髪を抜けやすくするのか?
クレアチンはスポーツパフォーマンスに対するエビデンスが豊富なエルゴジェニックエイドであり、多くのアスリートに利用されている。このクレアチンに関して、脱毛が起こりやすくなるのではないかという考え方がある。
その理論的な根拠とは、クレアチン摂取によって、男性ホルモンであるアンドロゲンが増加することから、その作用によって脱毛が促進されるというものだ。より詳しくは、主要なアンドロゲンであるテストステロンの代謝産物であるジヒドロテストステロンは、アンドロゲン受容体への親和性が高く作用が強力であり、前立腺、毛包、皮膚などにおいて、前立腺肥大、男性型脱毛症などの発症・進行に関与しているが、クレアチンはテストステロンからジヒドロテストステロンへの代謝を促進するというものだ。
さらに、クレアチン摂取開始後に、頭髪が薄くなったという逸話的な報告がみられる。ただし、これについては主観的な判断によるものであり、エビデンスレベルは低い。これまでのところ、クレアチン摂取が脱毛を促す潜在的な可能性を、対照群を設けて検証した研究は行われていない。
これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、プラセボ対照二重盲検試験による検証を行った。
筋トレを行っている男性を2群に分けて12週間介入
研究参加者は、オンライン広告を通じて募集された男性45人。適格条件として、年齢が18~40歳で、過去1年以上にわたり体系的な筋力トレーニングを行っていること、フィナステリドやミノキシジルといった医薬品の利用を含め、育毛や植毛、脱毛予防を行っていないこと、過去3カ月以内にクレアチンを摂取していないこと、過去6カ月以内にアナボリックステロイドを服用していないこと、アンドロゲン分泌に影響を及ぼし得る内分泌疾患に罹患していないこと、頭髪に影響を及ぼし得る皮膚疾患に罹患していないこと、12週間の介入期間中に食習慣やトレーニング(少なくとも週3回)を変更しないこと、などが設定されていた。
無作為に2群に分け、1群をクレアチン群、他の1群をプラセボ群とした。クレアチン群には、1日5gのクレアチン一水和物、プラセボ群にはマルトデキストリンを同量、外観や食感、味からは区別がつかないように調整して支給し、12週間摂取してもらった。
介入の前後の採血検査で、クレアチニン、総テストステロン、遊離テストステロン、ジヒドロテストステロンの変化を評価。また、頭頂部頭皮の高解像度画像を標準化された倍率と照明で撮影し、毛包の密度、毛幹の太さなどを評価した。
介入中の脱落等により、各19人、計38人が解析対象となった。年齢26.7±5.6歳、BMI25.5±3.2、総テストステロン298.3±765.1ng/dL、遊離テストステロン21.8±7.6pg/dL、ジヒドロテストステロン52.9±20.7ng/dLであり、すべて群間差が非有意だった。
介入後は両群ともに総テストステロンが上昇し遊離テストステロンは低下
12週間の介入で両群ともに、総テストステロンは有意に上昇、遊離テストステロンは有意に低下し、ジヒドロテストステロンは変化がなかった。この時間効果の原因について著者らは「不明」としたうえで、既報研究からの考察として、季節変動によるものではないかとの考察を述べている。本研究は晩夏から初秋にかけて実施されていた。また、クレアチン摂取後にテストステロンがわずかに上昇するという限定的なエビデンスはあるものの、全体としてクレアチンは総テストステロンや遊離テストステロン、およびジヒドロテストステロンに影響を及ぼさないとしている。
なお、クレアチニンやeGFRに有意な変化はなく、有害事象は両群ともにみられなかった。
頭頂部の高解像度画像の解析結果は有意差なし
介入の前後で、頭頂部の毛髪数、毛髪密度、成長期毛髪率、休止期毛髪率、総毛包単位、終毛(太く、長く、成熟した毛髪)の割合、軟毛(細く、短く、柔らかい毛髪)の割合など、評価したパラメータについてすべて両群ともに有意な変化は観察されず、群間差も非有意だった。
クレアチンは脱毛を促進しないと考えられる
著者によると、本研究はクレアチン摂取と毛包の質との関連を評価した初の研究だという。
これまでの知見と異なる点として、クレアチン摂取によりジヒドロテストステロンへの変換が増加するという現象が確認されなかったことが挙げられるが、この点については、方法論の違いによるものの可能性があるとのことだ。すなわち、本研究ではローディング期(クレアチン摂取開始1週間程度の間、体内のクレアチン量を迅速に高めるために高用量を摂取する期間)を設けず、一方で介入期間が先行研究(3週間程度)より長い12週間であった。
このほかに、アンドロゲンレベルを血液検体のみで測定していて毛髪中の濃度を測定していないこと、脱毛の家族歴を評価していないことなどを、研究の限界点として挙げている。後者については、脱毛症の父親をもつ男性は脱毛症のリスクが2倍であるという報告があることから、家族歴を検討因子に含めた将来の研究の必要性に言及している。
論文の結論は、「クレアチンが脱毛を引き起こすという主張に対する反証として、強力なエビデンスを得られた」とまとめられている。なお、一部の著者が、クレアチンを含むサプリメントのメーカー等との利益相反(COI)に関する情報を開示している。
文献情報
原題のタイトルは、「Does creatine cause hair loss? A 12-week randomized controlled trial」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Sep;22(sup1):2495229〕
原文はこちら(Informa UK)