主要栄養素摂取量と睡眠の質との有意な関連が、女性持久系アスリート対象の横断研究で明らかに
国内の女性持久系アスリートを対象として、栄養素摂取量と睡眠の質との関連を検討した研究結果が報告された。1日のタンパク質摂取量が多いことや、夕食時の炭水化物摂取量が多いことは睡眠の質の高さと正の関連があり、脂質の摂取量が多いことは負の関連があるという。順天堂大学スポーツ健康科学部の鯉川なつえ氏、鈴木良雄氏、順天堂医院睡眠・呼吸障害センターの葛西隆敏氏らが行ったパイロット研究によるもので、「Nutrients」に論文が掲載された。
女性持久系アスリートは食事を制限しがちで、栄養による睡眠への影響が懸念される
近年、アスリートにとって睡眠は、トレーニングや栄養とともに、パフォーマンスの向上に欠かせない要素として位置づけられるようになってきている。また、特定の栄養素の不足または過剰、あるいはエネルギー摂取量の多寡が睡眠の質に影響を及ぼし得ることを示す多くのエビデンスが蓄積されつつある。さらに、睡眠の質の低下と、利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)との関連についても報告されている。
LEAは持久系競技などのアスリートでリスクが高く、とくに女性アスリートでハイリスク。以上から、女性の持久系競技アスリートは栄養素摂取量が十分でないことが多く、そのことが睡眠の質に悪影響を及ぼしている可能性が懸念される。しかし、これまでのところ、そのような観点で行われた調査研究は報告されていない。
女子大学生持久系アスリート対象に、6日間にわたり食事と睡眠を評価
この研究は、大学の運動部に所属する持久系アスリートを対象とする横断研究として、8~11月のプレシーズに実施された。月経中でない27人が参加したが、6日間の研究期間中に月経が始まった1人、後述の睡眠測定デバイスによるデータが記録されていなかった1人、研究参加後に睡眠障害の既往が報告された1人を除外し、24人を解析対象とした。
解析対象者のおもな特徴は、年齢は平均19.5±0.9歳、BMIは19.4±1.2、体脂肪率(中央値)14.2%、トレーニング時間3.3±0.6時間/日で、種目は長距離が58.3%、中距離と競歩が各20.8%だった。
栄養素摂取量
6日間にわたり、食事の内容と時間を記録、および写真を撮影してもらい、摂取栄養素量を推定した。なお、研究期間中は、カフェイン、アルコールの摂取を禁止した。
エネルギー摂取量は中央値1,983.02kcal(47.3±11.7kcal/kg除脂肪体重〈FFM〉)であり、LEA(30kcal/kgFFM未満)の該当者はいなかった。また、夕食後から就寝までに飲食した記録はなかった。
主要栄養素の摂取バランス(%エネルギー)は、炭水化物52.9±4.7%、タンパク質17.2±1.7%、脂質28.2±4.3%だった。
睡眠関連パラメータ
睡眠関連パラメータは、手首装着型のウェアラブルデバイス(Fitbit Charge 3)を用いて、就床時間、就床から起床までの覚醒時間(以下、覚醒時間)、睡眠時間(就床時間-覚醒時間)、および、レム睡眠、浅いノンレム睡眠(N1~2)、深いノンレム睡眠(N3)の時間を測定した。なお、入眠潜時(就床から入眠までの時間)も重要な睡眠指標だが、Fitbit Charge 3での入眠潜時の測定結果は睡眠時脳波検査の結果との相関が十分でないことが報告されているため、本研究では用いなかった。
就床時間は平均440.7±42.2分であり、覚醒時間は56.0±10.7分、睡眠時間384.6±39.1分で、レム睡眠73.9±23.5分(睡眠時間に対して16.8%)、浅いノンレム睡眠243.1±31.8分(同55.3%)、深いノンレム睡眠は67.6±15.4分(15.3%)だった。
栄養素摂取量と睡眠関連パラメータの相関を検討
得られた結果から、栄養素摂取量と睡眠関連パラメータの関連性を検討したところ、以下のような有意な相関が認められた。
タンパク質や炭水化物の摂取量の多さは睡眠の質の高さと関連
まず、1日単位の摂取量でみると、タンパク質の摂取量が多いほど覚醒時間が少ないという、睡眠の質を高めるような関連が認められた(R=-0.491〈95%CI;-0.752~-0.097〉)。ただし、夕食でのタンパク質摂取量に限ってみると、睡眠関連パラメータとの有意な関連はみられなかった。
一方、炭水化物については、1日単位の摂取量と睡眠関連パラメータとの有意な関連はなかったが、夕食での摂取量が深いノンレム睡眠の時間と正相関しており、睡眠の質を高めるような関連が認められた(R=0.417〈0.004~0.709〉)。
脂質の摂取量の多さは睡眠の質の低さと関連
タンパク質や炭水化物とは反対に、脂質に関しては摂取量が多いほど睡眠の質が低下するという関連が認められた。
具体的には、1日単位の摂取量が多いほど深いノンレム睡眠が少なく(R=-0.477〈-0.744~-0.078〉)、かつ、夕食での摂取量も深いノンレム睡眠の時間と逆相関していた(R=-0.417〈-0.709~-0.004〉)。
夕食時の主要栄養素バランスの最適化が睡眠の質の向上につながり得る
著者らは本研究の限界点として、サンプルサイズが小さいこと、観察研究であり因果関係の考察が制限されること、睡眠の質をゴールドスタンダードとされるポリグラフ検査ではなくウェアラブルデバイスで評価していること、および、対象者に利用可能エネルギー不足(LEA)が含まれておらずLEAの影響を検討できなかったことなどを挙げ、さらなる研究の必要性を指摘。一方で、単一大学の学生を対象としたため、日々のスケジュールやトレーニングのばらつきが小さく、潜在的な交絡因子の影響が少ないと考えられることは、本研究の強みであるとしている。
論文の結論は、「LEAでない健康な女性持久系アスリートでは、とくに夕食時の脂質摂取量が多いことが、深いノンレム睡眠に悪影響を及ぼし、一方で炭水化物はそれを促進する。よって、夕食時の主要栄養素バランスを最適化することで、睡眠の質が向上し、それが運動能力の向上につながる可能性があるのではないか」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Impact of Macronutrient Intake on Sleep Quality in Female Endurance Athletes: A Pilot Observational Cross-Sectional Study」。〔Nutrients. 2025 Apr 17;17(8):1368〕
原文はこちら(MDPI)